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Updated 2022.04.16

《 日本料理 海風亭(かいふうてい)》オーナーシェフ | 美浪 呂哉(みなみ ともや)


食の町から “魚津を伝える”、熱き料理人の挑戦


#日本料理 #月乃破片 #海を守る #イート・オフセット

食の町から “魚津を伝える”、熱き料理人の挑戦

Profile|Tomoya Minami

創業110年以上の日本料理店の5代目。19歳から6年間、金沢の都ホテルで日本料理の修業を積み、25歳で実家の海風亭に入り結婚。27歳で料理長となり、2017年の「RED U-35(RYORININ’s EMERGING DREAM under35)」では “シルバーエッグ” を受賞。2019年の「第7回日本料理コンペティション」では新潟大会3位に入賞した実績を持つ。仲間と海岸清掃を行うなど、地域活動にも精力的に取り組む。

魚津に来ないと味わえない逸品のひとつ「ウマヅラハギ」の薄造り。肝醤油で食べると絶品!

海風亭5代目の挑戦

魚津の玄関口・JR魚津駅前で1908年に創業した海風亭。老舗日本料理店として、魚津の美味しい水に育まれた食材の良さと鮮度を活かした料理が人気です。オーナーシェフの美浪さんは “魚津を伝える” をコンセプトに、地魚にこだわってお店を営んでいます。
美浪さんは、金沢での修業を経て27歳で家業の5代目に就任。しかし当時、店の経営はあまり思わしくなく、どうにか経営を立て直したいと悩みながら糸口を探っていました。
そんな時に美浪さんが参加したのが、“魚津三太郎塾(魚津市が開催する地域の人材育成を目標にした学びの場)” です。企業の社長や大学教授の講義を受ける中で、高低差4,000mの富山の地形のこと、山と海を循環する水が美味しい理由など、魚津の特徴や強みを学びました。

「高低差や水循環の話は、料理人としての今の自分の礎になっています。自分には芯が2つあり、1つは金沢で学んだクラシックな懐石料理。もう1つは、魚津三太郎塾で勉強させてもらった地域の特色。この2つの掛け算です。基本の上に自分や魚津を表現すると大勢の人に喜んでもらえると感じ、“魚津を伝える” ということがそれ以降のコンセプトにもなりました」

と美浪さんは言います。

料理で伝える魚津の魅力

“魚津を伝える” ものの1つに、海風亭の人気メニュー “げんげの竜田揚げ” があります。
かつて “下の下(げのげ)” と言われ、利用価値が少なく捨てられる存在だった魚を、父であり今も共に板場に立つ4代目が商品開発したものです。当時はまだSNSが無かったにも関わらず、漫画 “美味しんぼ” に掲載されたことも後押しとなり、一躍海風亭の名物料理に。

「水揚げから数時間以内に適切な下処理をして、鮮度の良い状態で揚げることで美味しくなります。衣のサクッとした感じやフワッとした身の食感は唯一無二。“ここ” に来てもらわないと食べられないものだと思います。」

海風亭の名物料理「げんげの竜田揚げ」。この食感と旨味の虜になる人が後を絶たない。サックサクの揚げたてをぜひ。

他にもバイ飯や呉汁、なますといった郷土料理を名物としてメニューに加え、都会では味わえない、地方ならではの料理を “素材が最も美味しい状態” で提供しています。
店に足を運び、できたての魚料理を味わってくれるお客さんに美浪さんが伝えたいのは、富山の地形や風土、食文化についてです。

「高低差によって、海水が蒸発して山にぶつかり雪や雨になり、それが川となり、地中にもぐって何十年もかけて地下を巡り、海底湧水として出てきます。その栄養豊富な水にプランクトンが集まり、小魚やさらに大きなブリ、タイが集まってきます。そのお魚やプランクトンの死骸がマリンスノーと呼ばれ、深海に沈んで深海の魚を育てています。
例えば、“げんげ” という1つの食材を題材に、それが美味しい理由や水循環など魚津の魅力を説得力をもってお伝えできます。そういった知識や郷土料理のことをもっと勉強し、より “魚津を伝える” ことに特化した、体験価値の上がるお店にしたいという想いを常に持っています。」

漁師飯だった「バイ飯」はバイ貝の旨味が味わい深い。海風亭のバイ飯は釜飯で。お焦げがまた食欲倍増だ。

きれいな海と魚を守る仕組みづくり

美浪さんには、料理人として日々研鑽を重ねる中で、もう1つ向き合っている課題があります。

“水がきれいな地元の海を維持し、美味しい魚を守りたい。地域を盛り上げることが、そこで根差す飲食店や企業を盛り上げることと重なる”

そんな想いで料理人仲間と始めたプロジェクトが、魚津の海岸清掃です。

「地域との繋がりは非常に大事で、魚津をブランディングすることが海風亭のブランディングにも繋がると考えます。魚津は全国的に見ても飲食店の比率が高く、美味しいお魚が強みであり特徴です。食に携わる職種の人たちが、海から恩恵をもらうだけでなく、海を守っていく活動をすることが大切だと思いました。」

「食べることは環境負荷を生むこと」に気付いた。料理人として何もせずにはいられなかった衝動が行動の原動力に。

2019年3月、SNSでの呼びかけに集まった人たちと共に海岸清掃をスタート。ごみは1時間で50袋も集まり、参加した人たちの反応に手応えを感じました。
しかし、地域のためになるこの活動を継続的に行うには、ボランティアでは難しいと考えていた美浪さん。行動を対価に変える仕組みを作り、ビジネスとして発展させられないかと模索していました。

回を重ねるごとに参加人数は増え、徐々に清掃活動が広まりつつあった2020年1月。
国外で報道された未知のウィルスの出現で、すべての動きが止まってしまいます。

コロナ禍からの異業種展開

新型コロナウイルス感染症で世界中が不穏な空気に包まれる中、2020年4月には富山県でも商業施設の休業要請が始まり、飲食業界にも危機的な状況が到来。
海風亭はいち早く、仲間とともにテイクアウトを開始するなど営業を続ける工夫をしていましたが、国や県の補助金を活用してもギリギリの採算となった時期がありました。

「補助金は将来に対する借金でもあります。飲食店ばかりが優遇されて良いのかとも考えましたし、以前から飲食店の経営業態に疑問がありました。来店されるお客様に料理を提供して対価をいただく体制は、客入りや天候に左右され、不安定です。コロナ禍をきっかけに経営体制を見直し、安定的な経営の下支えとなる商品を開発しようと考えました。」

オリジナリティのある商品を求めて試行錯誤する中で、響きが面白く、差別化できる可能性のある “日本料理ポテトチップス” を発案。昼営業と夜営業の間のアイドルタイムに製造でき、常温でストックするのにも最適です。

日本料理の基本である“出汁”で煮含ませることが素材の味を引き立たせ、さらにジャガイモ全体の味の均一化も叶った。
「最初はどうしても焦げてしまって…」 何もかもが一筋縄ではいかなかった。が、持ち前の粘り強さでひたすら試作。

いくつもあった課題は、原点に戻り、18年間で培った日本料理の知識や技術を活かして解決してきました。約半年間、店の営業後に深夜まで試作を繰り返し、食材の味が引き立った逸品に仕上げることに成功します。さらに、富山に深い関わりのある海の幸を使った「煎り粉」をかけて特色を出しました。

こうして菓子製造業の許可を受け、2021年8月、ついに日本料理ポテトチップス「月之破片−TSUKINOHAHEN−」が完成。主にオンラインでの受注生産開始直後から大変な人気が出て、あっという間に品切れ状態。メディアやSNSで話題になり、常に生産が追いつかない人気商品となりました。

「日本料理の仕事はすごく繊細で、1つ1つの工程を丁寧に進めないと最終形態できれいに仕上がりません。ポテトチップスも1つ1つ手作りなのは大変ですが、今まで空いていた時間を有効活用できていると思います。おかげさまで、経営の安定化も現実になってきました。」

日本料理ポテトチップス「月之破片−TSUKINOHAHEN−」
マスとカラスミのふりかけを使った “夕月”、白エビ・タイ・このわたのふりかけの “海月”、出汁に使った鰹節や昆布を乾燥させ粉状にしてふりかけた “プレーン” の3種類がある。(月乃破片オンラインショップで販売中 https://kaifutei.theshop.jp 

魚津から始まる“イート・オフセット”

“日本料理ポテトチップス” の販売が軌道に乗り出した頃、海岸清掃の活動にも新たな動きが生じます。
2021年7月、魚津市は新型コロナウイルス対策の一環で、市内店舗でのキャッシュレス決済推進と市内経済活性化のために、カードやスマートフォンで使える電子地域通貨 “ミラペイ” を発行する事業を開始。それに伴い、市役所主催イベントの参加者へ行政ポイントを付与することが可能となり、これが美浪さんたちの清掃活動に活用されることになりました。

思い描いていた構想が、ミラペイの登場で実現しました。海岸清掃に参加した人に500円分のミラぺイを付与できる形になったので、例えば家族4人で1時間ほどの清掃に参加すれば2000円分になります。良いことをして、子ども達も働いた対価を得ることができる。そんな経験をしながら、なぜこういうことをするのか、食や地域の課題にも少し目を向けてもらえたらいいなと思っています。」

仲間数人とボランティアで始めた活動は、魚津市と連携することで一歩前進。さらに企業を巻き込むビジネス化を目指す。

しかし、美浪さんにとっての海岸清掃プロジェクトは、これがゴールではありません。
実は、ごみで特に多いのがペットボトルや容器包装など食品に関わるプラスチック製品。大手メーカー製のものがたくさん海に蓄積され続けています。この現状を認識したメーカーから市に “オフセットクレジット(自らの排出分を相殺する活動への寄付金)” として入れてもらい、市からミラペイ(地域通貨)の形で参加者に配る仕組みにすることを、美浪さんは目指しています。
この仕組みづくりのヒントにしたのが、“カーボン・オフセット”(排出する温室効果ガスの削減できない分を植林・森林保護・クリーンエネルギー事業などで埋め合わせること)でした。

「僕の考えたこのシステムは “eat offset(イート・オフセット)” と言います。飲食することでかかる環境への負荷を、ごみ拾いという行動で埋め合わせようとすることです。まだ全然認知されていませんが、SDGsの広まりでやっと皆さんに理解していただけるようになってきたと感じています。このシステムが米騒動みたいに全国に広がっていけば、発端は魚津市の料理人となり、食に対する意識の高い “食の町” というブランディングに繋がります。これは何十年かかるか分からないですが、続けていきたいと思っています。」

行動を起こす時はいつも側に仲間の存在が。「僕ら熱い想いで活動するんで、若干面倒くさい人間の集まりなんですよ(笑)」

“魚津”に向き合い続ける覚悟

“経営を立て直したい” という想いを原動力に、走り続けてきた美浪さん。料理人としての腕を磨きながら地域活動も率先して行い、コロナ禍においても “日本料理ポテトチップス” や “海岸清掃のポイント付与” を形にしてきました。
今後は海風亭を守ることを重要な課題としつつ、自分自身の夢を叶えることも目指しています。

「いずれは、料理人として自己表現できる高価格帯のレストランを開きたいですし、“日本料理ポテトチップス” のように、また新たなものを生み出したいです。まだまだ、自分の道半ばっていう感じですね(笑)。料理人は地方でも夢を叶えられるので、僕はこの場所で生まれて良かったと感謝しています。」

実は美浪さん…

RED U-35 2017 シルバーエッグ受賞

RED U-35とは “日本最大級の料理人コンペティション”と銘打つ、若手料理人が技を競う頂点対決。美浪さんは、国内外から448名のエントリーがあった2017年大会で三次審査まで勝ち上がり見事シルバーエッグを受賞。テーマに沿った料理の創出はトライアンドエラーの繰り返しで、精神的にも相当キツかったそう。が、評価されたことで大きな自信になった。その時得た「真剣に悩んで努力すれば何か生まれる」という経験は、その後“日本料理ポテトチップス”を生み出す際の粘り強さにもつながった。

魚津+能登の融合?

一緒にお店を切り盛りする奥さまは、富山のお隣り石川県、能登の出身。2人の出会いは美浪さんの金沢での修行時代で、同じ日本料理店のホールスタッフだったそう。 現在2人のお子さんを持つお父さんでもある美浪さん。自身が取り組んでいる海岸清掃に家族で参加することも。子育てについては「ほとんど奥さんに任せきりで..」と苦笑い。夢中になることがあると、ひたすら真っ直ぐに突き進む横で、しっかり者の奥さまが、きっと大きな支えとなっているのだろう。

オフはアクアリウムと茶道

趣味はアクアリウムづくり。自然の石や流木なども組んで、水草が育っていく様子や水の中の風景、そこに泳ぐ熱帯魚を何も考えずにボ〜と眺めている時間に癒されるそう。 もう1つの趣味は茶道で、かれこれ15年になるという。歳を重ねるごとに、ひとつひとつの所作や振る舞い、和のしつらい、おもてなしの精神など、すべて日本料理にも通じることを実感するようになったとか。アクアリウムも茶道も共に自分自身と向き合う時間。そこからまた新しい何かが生まれるのかもしれない。

「海風亭」へ立ち寄りたい
スポット情報
 
「海風亭」へ立ち寄りたい
富山の新鮮な食材を使った日本料理が気軽に食べられると評判。リーズナブルな価格帯で楽しめるランチ時間はいつもお客様で賑わうので、急ぎの方は予約をおすすめ。海鮮丼やバイ飯定食などが人気のメニューだが、お腹に余裕がある方は、ぜひ「げんげの竜田揚げ」を追加して欲しい!

日本料理 海風亭 美浪 呂哉(みなみ ともや)

場所 富山県魚津市釈迦堂1-13-5
TEL/FAX TEL 0765-22-7303
about 【海風亭の営業案内】
日曜・祝日休み。昼11:30〜14:00、夜17:00〜21:00。
予算目安/昼990円〜、夜3,000円〜、コース3,500円〜あり。
座席/テーブル28席、カウンター7席、小上がり、個室、宴会場あり。(2022.3月現在)

【日本料理ポテトチップス】
オンラインショップで販売 https://kaifutei.theshop.jp 

Web/SNS https://minamikan.com/kaihutei.php

https://www.instagram.com/minami.kaifutei/

美浪さんは、食材を持続的に未来に繋げる様々な試みをされています。 「魚を扱う人達の意識が変われば、資源のあり方も変わる。最近は漁師さんが魚を “神経締め”してくれ、日持ちする上に抜群に美味しくなりました。食材の価値が上がれば、魚を獲りすぎなくても生計が立てられます。資源を守ることと、美味しさや鮮度の良さがイコールで結ばれることが理想。消費者自身が環境負荷の少ないものを選ぶ意識を持つ必要があり、いずれそういう未来は来るんです」という話もされていました。頭に描いた料理や目指す理想を形にするまで諦めず、試行錯誤される姿は、たくさんの人に刺激と勇気を与えられていると思います。

取材・ライター 古野 知晴 (VoiceFull代表、キャスター)
撮影      鬼塚 仁奈(tete studio works)
取材日     2022.1

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