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Updated 2021.02.10

《 ひえばた園 》代表 | 稗苗 良太(ひえなえ りょうた)


農家が伝える
この時代を生き抜くヒント


#専業農家 #自然農法 #有機農法

農家が伝えるこの時代を生き抜くヒント

Profile|Ryota Hienae

魚津市稗畠地区で「ひえばた園」を営む米の専業農家。6.5hヘクタール(田んぼ43枚分)の土地で、無農薬の自然農法と減農薬で有機農法の2種類の米作りを行う。
米・食味分析鑑定コンクール国際大会 2015年 金賞、2016年 特別賞受賞。

海から山間部への距離が近い魚津。標高150m以上の “ひえばた園” にも富山湾からミネラルたっぷりの風が届く。

美味しい米づくりの秘訣

ひえばた園では、主力のコシヒカリをはじめ、てんたかく、イセヒカリ、ササニシキ、亀の尾の5品種を生産しています。農薬も肥料も使わない自然農法では、刈り取った脱穀前の稲を田んぼで “はさがけ” し、ブルーシートに広げて天日乾燥させています。肥料を入れないために収穫量は通常の半分ほどに減ってしまいますが、稗畠地区のきれいな水と地力によって、美味しい米に育ちます。有機農法では循環型農業を目指し、魚津市石垣新にある稲盛ファームの鶏糞を肥料にしています。

稲刈り後、晴天を狙って夫婦で “はさがけ”作業 。時には風に煽られて倒れたりすることも。

米作りで最も大変なのは、自然が相手なので天候に左右されること。天日乾燥には、刈り取った日と翌日の最短で2日間晴れが続くことが必要ですが、曇りの日が多いと1週間ほどかかります。さらに雨や台風の予報だと、稲が濡れないよう“はさ”から下ろして取り込み、晴れるとまた“はさがけ”するという手間が増えます。
特に2020年は、7月の日照不足や長雨、夏の暑さの影響がありました。また、中山間地である稗畠地区は変形田や沼田もあるほか、田んぼの法面(のりめん:あぜの斜面)が大きいため草刈りに長時間かかる上に、サルやイノシシによる獣害もあり、平野部に比べて不利な要素が多いのです。それでも稗苗さんがこの土地で米作りを続けているのは、稗畠地区の地力への信頼と自信があるから。そしてもちろん、農業への愛情と情熱は欠かせません。

“はさがけ” は、ひえばた園のフラッグシップでもある。魚津の恵まれた自然からの恩恵を受けて極上のお米が出来上がる。

稗苗さんが米・食味分析鑑定コンクール国際大会に出品したコシヒカリは、都道府県代表 お米選手権で金賞(2015年)と特別優秀賞(2016年)を受賞しました。
肥料を使わない自然農法で、それもまだ就農して間もない頃に全国的なコンクールで受賞できたのも、清涼な水と太陽の光を十分に得ることができるこの稗畠地区の風土のおかげだと稗苗さんは考えています。

「稲も人間と同じで、日中に活動(光合成)をしてエネルギーを使い、夜は休んででんぷんを蓄えるんです。その夜に田んぼへ冷たい水を入れることで稲が休まるので、水の良さはもちろん、昼と夜の寒暖差が米の旨みや甘みを作り出します」

ひえばた園の美味しいお米は、魚津市の、この稗畠地区だからこそできるのです。

1年に1度の米づくりで命をいただく

稗苗さんの家は、元は兼業農家でした。継ごうとは思っていなかったのが、将来を考えた大学4年のときから農業に携わる仕事をしようと考えるようになったそうです。日本は東南アジアなどの暖かい国よりも四季を感じやすく、農家の方々は特に季節で動いています。稗苗さんは、太陽とともに起き、太陽とともに仕事仕舞いをすることの魅力を語ります。
30歳を区切りにして独り立ちすることを考え、逆算して若い時に就農しながら社会経験を積む道を選択。24歳でUターンして農業の勉強を始め、27歳で米作りを本格的に始めました。その頃、地元で開催された「とやま帰農塾」に参加した際、近所に住む90歳のおばあちゃん(祖母の妹)から言われた

「お米作りは大変だけど、命そのもの。1年に1度、その命をいただくんです」

という言葉が今でも稗苗さんの心に残っています。年に1回しかできない米作りができるのも、70代までだとするとあと40回ほど。1回1回を大切にしようと考えています。

「年に1回しかできないんですよね。元気に米作りが出来るのは、あと40回ほどしかない」

稗苗さんが29歳の時、企業の産業保健師をしていた奥さんと結婚。奥さんは結婚を機に仕事を辞め、2人で農業をやっていくことを決めました。最初の2~3年は大変でしたが、イベントへ出店したりオンラインショップで販売したりと様々な工夫によって、34歳の今では農業で食べていけるようになりました。加工品を作ろうと考え、米を製粉して米粉にし、おやきや米粉クッキーの販売も始めました。おやきは1つのメニューに、必ず県産のものを入れるなど、自分たちのルールを決めています。

農業で生活を成り立たせるにあたっては、どうしても理想と現実のギャップが生まれることも。天候によってスケジュールが変化してしまうため、臨機応変な対応が必要なことや、体力仕事なので田んぼでクタクタになって家に帰ってくると料理を満足に作れず、食生活が充実できないという葛藤もあったそうです。

「農業をしていると、自給自足の素晴らしい生活をしていると思われがちですが、必ずしもそうはいかないです。でも、コロナをきっかけに自炊が増えたのは良かったと思っています。」

個人的にも食生活が変わり、外食はほぼしなくなったと話す稗苗さん。食べることが大好きなので、お父さんの家庭菜園の野菜や全国から取り寄せた美味しいものを使って、奥さんと一緒に料理をするそうです。

コロナをきっかけに100%お家ご飯に。夕食のメインは良太さんの担当で毎日二人で台所に立つのだそう。う、羨ましい…。

お客さんと直接関わり、思いを伝えたい

イベント出店は種まきと同じ。すぐに結果が出るものではないため、辛抱強さが大事です。稗苗さんは、イベントなどでお客さんと直接話せる機会を大切にしており、そこでいろんな人と知り合ったことで潜在的なお客さんも増えました。

「米は精米するとそこから酸化が始まります。生鮮食品と同じように扱うことが大事ですが、そういったことも伝えていきたいです。美味しいものは単に味が美味しいだけではなくて、作り手の心や風土を感じることが出来ればさらに旨味は倍増すると信じています。」

オンラインで販売する「ポケットマルシェ」へも出店したことで、忘れたころに連絡が来るようになり、秋から年末までは休みなしの忙しさ。

新米発送が落ち着く間もなく、しめ縄作り教室や餅つきイベントなど目白押し。コロナ禍でもオンライン展開を画策中!

例年、9月に収穫・発送の時期が終わると10月初旬からイベントが目白押しで、しめ飾りを作る教室やもちつきなども行っているほか、年末年始は上市町の大岩山日石寺でおやきを販売しています。
2020年は新型コロナウイルスの感染拡大の影響でイベントへの出店を取りやめたものの、外出自粛により家庭での米の消費が増加した分、個人のお客さんからの引き合いが増えました。お客さんは健康志向の高い方をはじめ、アトピーや病気などで健康に不安を抱える方といった、明確な意思を持って購入する方が多かったのが、さらにその傾向が強くなったそうです。
稗苗さんは今後、消費者と直接つながれるような店舗を作りたいと思っています。お客さんが常時訪れることができ、その場で買える店舗があれば、自分たちが時間をかけて作っている大切な米について、生産者としての想いを直接伝えることができます。
オンラインでは米粉クッキーの手作りキットの発送を始めたほか、県内外のお客さんとの交流に、事前に藁(わら)を送ってzoomでしめ飾り教室を行うことも考えています。

「蜜な育苗ハウスの中はバランスを崩すとウィルスが蔓延する。」コロナ禍の世の中と同じだと話す笑顔に余裕を感じる。

農業には、この時代を生き抜くヒントがある

普段の農業にも、この時代を生き抜くヒントがあると話す稗苗さん。

「ウイルスや細菌といった、目に見えない微生物を味方にして有用に働くようにするのは、土も人間も同じです。病気も、自己免疫力が強ければ発症しないですよね。食習慣に気を配り、ストレスを溜めずに穏やかに過ごすなど、免疫力を上げることが大切です。育苗ハウスはまさに苗が密な状態であり、病気が発生するリスクが高いため、定期的な換気やプール育苗で清潔に保つ工夫をしています。」

今後は、微生物を活かす栽培など、いろんなものを試しながら稲の病気や異常気象に負けない土づくりに力を入れたいそうです。

「消費者と生産者が直接つながれる場所が必要。店舗に委託して置いてもらうだけではこちらの思いは伝わらない」

課題から考えるこれからの農業

今後の課題は、集落の高齢化とそれに伴う生産性の低下。農業を続けていくためにどうしたら良いか。
農業の後継ぎ不足の問題は、里山だけでなく、平野部でも共通しています。コストを下げて持続的に行えるよう、地域の人との協力は欠かせません。稗畠地区には年配の方も多いものの、80歳の一人暮らしのおばあちゃんが美味しい料理を作って公民館でみんなに振る舞っているという稗苗さんの話から、地域の結束が伝わってきました。

「みなさんパワフルで、知恵と行動力を見習うばかりです。魚津市全体を見ても、同世代の飲食店経営者などがコロナ禍の中でいち早く行動し、すぐに対応していたのを見て、刺激を受けました。思いが行動になっています。結果が出なくてもやらないよりはいいですし、そんな行動力が生き残るために必要なのだと思いました。」

今後の課題は、集落の高齢化とそれに伴う生産性の低下。農業を続けていくためにどうしたら良いか。
農業の後継ぎ不足の問題は、里山だけでなく、平野部でも共通しています。コストを下げて持続的に行えるよう、地域の人との協力は欠かせません。稗畠地区には年配の方も多いものの、80歳の一人暮らしのおばあちゃんが美味しい料理を作って公民館でみんなに振る舞っているという稗苗さんの話から、地域の結束が伝わってきました。

「みなさんパワフルで、知恵と行動力を見習うばかりです。魚津市全体を見ても、同世代の飲食店経営者などがコロナ禍の中でいち早く行動し、すぐに対応していたのを見て、刺激を受けました。思いが行動になっています。結果が出なくてもやらないよりはいいですし、そんな行動力が生き残るために必要なのだと思いました。」

マジックアワーのイチジク畑。人気の “おやき” やドライフルーツなど加工品への展開も模索中。

「“アフターコロナ”と言われる中、みなさん急には変われないとは思いますが、目まぐるしく変わる時代に消費者の生活様式など、状況に合わせて提案していくことが大事です。僕の役割は、農業の力を信じて米作りをベースにし、食べたいという方の食卓に届けること。農業を通して想いを伝え、自分もみなさんに刺激を与えられるようにしたいです。」

ひえばた園のお米を買いたい!
スポット情報
環境保全米コシヒカリ白米5kg 2,630円(税込/送料別)ほか販売中。近隣農家も羨む美味い米を一度ご賞味あれ。 ※2021.1月現在の価格
ひえばた園のお米を買いたい!
富山県北アルプス・立山連峰。この標高3,000m級の山々に積もった雪がおいしく豊かな水源のひとつ。ひえばた園のある魚津市は年間約5億トンも雨や雪が降り注ぎます。山からの雪解け水や地下水(湧水)が一番はじめに届く田んぼがひえばた園の田んぼです。
農薬や肥料を使わず、昔ながらの「はさ干し」と呼ばれる天日干しのお米を中心に生産しています。また近年では、地元産の肥料(堆肥や鶏糞)を使用した地域循環型の有機栽培にも力を入れています。
ひえばた園の商品は、直接お問い合わせいただくか、生産者からの直販購入ポータルサイトの「ポケットマルシェ」でもご購入可能です。

ひえばた園 代表 稗苗良太

場所 富山県魚津市稗畠1681
TEL/FAX TEL 0765-33-9525 
Mobile 080-5076-2086
FAX 0765-33-9525
about SNSでイベント案内や活動、日々の思うことなどを発信中。
商品購入は、ひえばた園オンラインショップ、ポケットマルシェのほか小売店にて取扱い

D&DEPARTMENT TOYAMA:https://www.d-department.com 
黒崎屋:
https://www.kurosakiya.co.jp 
その他、月1回の配達:みどり共同購入会(魚津市内のみ)
Web/SNS http://www.hiebata.farm


https://www.instagram.com/hiebata_farm/

SNSなどで目にする稗苗さんの姿は、草刈りや農作業を楽しみ、農業の素晴らしさを発信するものでした。実際に話を聞いて想像以上に大変そうではあったものの、地域のおばあちゃんから同世代の人たち、県内外のお客さんといった「人とのつながり」を大事にすることで、今後の農業の可能性を広げられているんだと実感しました。個人的に強く印象に残ったのが「米は生鮮食品と同じ。精米した時点から酸化が始まる」という言葉。確かに、最近食べた精米直後のお米はもちもちしていて全然違いました。私もより美味しくお米を食べるために、家庭用精米機を買おうと決心したのでした。そして、精米直後の稗苗さんのお米を食べるのが今の楽しみです。

取材・ライター 古野 知晴 (VoiceFull代表、キャスター)
撮影      鬼塚 仁奈(tete studio works)
取材日     2020.9

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