Updated 2021.07.01
《 ブルーベリー体験 むかいさんちの農園 》代表 | 向中野 芳和(むかいなかのよしかず)
農家へ転身!地域にリアル体験農園を
#元公務員 #農業 #ブルーベリー狩り体験農園
Profile|Yoshikazu Mukainakano
9年の市役所勤めから2015年、34歳の時に農家へ転身。子どもたちはもちろん、たくさんの人に「リアル」だからこその楽しさを体感してほしいと、2017年、魚津で初めてのブルーベリー狩り体験農園を開園する。
1000本のブルーベリーのポット栽培(敷地面積60アール)農園運営ほか、ジャムや果実の販売など。
大学卒業後から9年勤めた市役所を2013年に退職し、農業に転身。2021年にはブルーベリー園を開園して5年目を迎える。
「軌道に乗っているかといえば、まだ乗っていないです。
なんとか生活出来てるのは、妻の協力のおかげですね。妻に感謝しかないです」
向中野さんと農業との接点は随分早い。それは小学校での農業学習でのこと。
「さつまいもとかを作って掘って食べると “うまいな!” と単純に思ったんですよ。自分にとって、収穫する喜びが大きかった。大休憩には “草むしり” という毎日も、黙々と自分と向き合う時間が結構好きで。今思えばそれが農業を志す原点で、その経験がなければ農家になろうとは思っていなかったです。」
ふわっと芽生えた「農業はいいな」という思いをその後も抱き続け、大学時代はバイオや遺伝子工学などを学ぶ。卒業後の進路として、いざ就農!という段階で、農家への門戸が想像以上に狭いという現実にぶち当たる。今から20年ほど前は、世襲でもない、農地も持たないただの若者が農家になることは困難だった。
当時の向中野さんには、手もなく農業への道は諦め、地元の魚津市役所へ就職することとなる。
市役所勤務では情報政策や広報、社会福祉などで、地元の人々と深く関わりを持ち、街の現状をより良くすることを考えた。
「僕は基本的に行政が好きなんです。だって、行政の人たちはみんな常に “誰かのために” やってるじゃないですか」
やりがいの中で様々な経験を積みながら、次第に組織の欠点や行政の仕組みゆえの限界が見えてくる。地域のためにアレコレしたいと思っても、ままならないと感じることも。
「市役所の仕事は法に縛られているから、やれることにも限界があることは十分理解できるんです。そこに文句を言ってもしょうがないんです。だったら、文句を言う前に自分で行動すればいい、って考えたんです。自分は今身を置いている行政という枠の外から何かを変えていこうと。それが今のブルーベリー農園に繋がっているんです。」
かくして、向中野少年の純粋な就農への憧れには、市役所勤務を経て、「何か地域のためになることがしたい」という志しが加わることとなる。
ブルーベリー体験農園を開くに至った決め手は、家族で行ったブルーベリー狩りでの自身の体験にある。
「息子が、ものすごく楽しんでくれて。その姿を見ながら、自分たちのような子育て世代が次の世代に残せるとしたら、アニメでもゲームでもなく、そういうリアルな楽しみなんじゃないかなぁと思いました。そういや魚津には収穫体験できる果樹農園がないなー、これはやる意味があるなー、と。」
とは言うものの、ゼロ知識での農業への転身は試行錯誤の連続だった。もちろん、お手本にさせてもらった農園や運営モデルはあれども、自然環境をはじめ集客条件など何もかもが違う。半ば手探りな状況の中で、今でも考え方の支えになっていることの一つに市役所時代の経験があるという。向中野さんが当時関わったプロジェクトの目標であった「自ら考えて行動する」という言葉が今も根底にあり、誰かがやったことの模写ではなく、自分のやり方を模索するということを常に意識してきたという。
「魚津は、他県の観光農園のように観光客が多く訪れる土地柄じゃないんです。だから、まずは魚津に根付いて、地域の人に受け入れられるには何をしたらいいのだろう、と考えました。毎年シーズンになったら、ちょっと近場に出かける感覚で『むかいさんちの農園に行こうよ』と言ってもらえるような、ごく普通に生活の横にある存在になりたいと。
近頃はリピーターのお客さんが増えてきています。認知されてきている、受け入れられてきているかな、って感じていますよ」
コロナ禍で様々な業種の維持が危ぶまれた2020年。
様々な物ごとの価値観が大きく変わりゆく中で、身近にあるリアルな感動を求めて、「むかいさんちの農園」には多くの人たちが訪れ、ブルーベリー狩りを楽しむ親子連れやグループで賑わった。
「すべてのモノゴトは段階を踏まないといけない、と思っています。ブルーベリーも、いきなり大きくするためにガーッと水をあげると根腐れするんです。結局、過度に期待や思いを優先して突っ走ると空回りして、どこかで転げ落ちてしまう。今もいろんな『こうしたい』という思いはあるけれど、一足飛びな規模拡大や身の丈に合わない展開などは無いですね。」
今の時代は自然災害やコロナ禍など、予期せぬことが必ず起こる。自然相手の農業では、計画を立てて上に向かうより、不測の事態にどう対応できるかの能力のほうが、より強く求められていると感じる、と向中野さんは言う。
遠い未来は描かずにその時その時に考えて計画していく。それが混沌とした様々な事象に柔軟に対応するための向中野さんのやり方だ。
最近は口コミで近隣のカフェやレストラン、お菓子屋さんとの横の繋がりが出来てきて、あちこちで「むかいさんちのブルーベリー」を使った商品が生まれている。点と点がつながって、さらに先につながって広がっていくのを実感しながら、誰かに任せる部分は任せて、とにかく自分でやることはしっかりやる、という思いがより強くなっている。
“ 地域のためになることを ”という志は、予想を超えて周囲に好影響をもたらしながら、地域とともに着実に成長を続けているようだ。
「自分の80〜90%はアニメで出来てる」
そう公言するアニオタで、さらにゲームやPCにも詳しい。会話の中にもあちこちにサブカルな言葉が出てくるので、そっち系が好きな人は訪れた際にぜひ話題を振ってみて。アニメ「“ 無限のリヴァイアス” が俺の人生を変えた」のだそう。ガンダムは特に詳しく、ブルーベリーの品種であるカミーユ、ティターンズ(本当はタイタン)、プルなどを嬉しそうに呼ぶ。バーチャルとリアル、両方楽しんでいるからこその向中野哲学が興味深い!
お父さんの顔
二人の男子のお父さんでもある向中野さん。農家への転身理由は子どもの存在も大きい。
「人生は一度きり。自分の行動を子どもたちのテストケースだと思っている。事業を自分でやった人間が家庭内にいたらお手本になってイイでしょ?失敗したら反面教師に、成功したら2代目に残せるかもしれない。いや、子どもの為なら生活が安定する公務員を辞めるべきじゃないよね。オレやっぱ利己的かぁ〜(笑)」
地域で支え合う農業を実現できないか?
長期的な見通しを伺った際、農家全体の先行きについての言葉が返ってきた。「いつも同じ金額で農作物が買えるのはおかしいことだと消費者が気づかなくてはいけない。自然災害や天候不順が収入に直結する農家の収入は、不安定すぎる」と。アメリカ等では地域の消費者が生産コストを受け持ち、農家が生産した野菜などを分配するという新しい形の産直システムが広がっているそう。そういう仕組みを地域でも何とかできないか、と思いを巡らせている。
むかいさんちの農園 園主むかいさん(向中野 芳和)
場所 | 富山県魚津市吉野549 |
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about | SNSで営業案内や活動、日々の思うことなどを発信中。 人気のブルーベリージャムの購入は農園の他に、魚津市内数カ所で購入可能。 むかいさんちのブルーベリーを使ったスウィーツ やドリンクがあるお店はこちら↓(メニューが変わっている場合もあります) |
Web/SNS |
https://mukainakano.com/
https://www.facebook.com/mukaisan/ https://twitter.com/Mukaisanchi2017 YouTubeチャンネル「むかいさんちの農園」 |
向中野さんにとっての「地域のために」ということの本質は、「自分の手持ちの範囲で地域をより良くしたい」ということであり、さらには「周囲に良い影響を及ぼしたい」ということなのかもしれないと感じた。
ここまで真面目に記事を取りまとめはしたが、実はインタビューの半分以上はアニメの話で脱線しまくった楽しい取材だった(笑)。とにかくオタク系多趣味で、恐らく困難な状況に直面しても楽しめる引き出しを沢山持ってるに違いない。様々な判断基準は「より面白そう」で「長く続けられそう」なことなのだとか。曰く「やりたくないことやってると心が病む(笑)」らしいから。なんとも素敵なバランス感覚!
取材・ライター 舘 香都佐 (スタジヲ×4466、webデザイナー)
撮影 鬼塚 仁奈(tete studio works)
取材日 2020.11
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